2. 電線の話

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2.1 LAN(Local Area Network)とWAN(Wide Area Network)

LANとWANの違いは定義する人によってさまざまであるが、ここでは語義を無視して通信事業者(NTTなど)が提供する通信インフラを借りて構築するネットワークをWAN、自前で設備を用意してネットワークをつなぐ場合をLANと定義する。たとえ実質的には10mの距離をつなぐためであっても、通信事業者が提供するインフラを借りないとつなげないならWANということになるし、数km離れていても自営のレーザーリンクで接続するならLANである。

このような定義を採用すると、技術的にはLANでもWANでも同一のものが利用されたりするため切り分けが難しくなる。しかしながら、実際にネットワークを構築する際に問題となることは、技術のみに限定されるわけではない。

たとえば公道をはさんだとなりのビルにあるブランチオフィスとの間の通信をどうやって行うかの意思決定は距離ではなく途中に公道が入っているということによってより強く制約される。これは、公道上に勝手に電線を渡してはいけないという規制があるから。電波や光による通信ができない場合には、たとえ10mしか離れていないビルであってもWANを用いて接続することになる。

以下の説明は、重複を避けるため個別の技術を基準に説明し、主としてLANで使われるかWANで使われるかを付記するという形式にする。多くのテキストは、LANとWANで大きく技術を分けてしまっているため注意が必要である。また以下の分類は概説的なものであり、IEEEの規格と直接対応するものではないことにも注意。

2.2 イーサネット(Ethernet):主にLAN

本来のイーサネットは、10Mbpsの伝送速度を持っている太い同軸ケーブルを使ったLAN技術であった。その後改良が加えられ、現在では10Mbpsのほかに100Mbps, 1Gbpsの製品は簡単に入手できる。さらに10Gbps製品も積極的に開発中であるが、まだ簡単に使えるような段階ではない。

イーサネットと一まとめに扱われるが、上記のように非常に多くの種類が存在する上、実際に使うケーブルも指ほどもある同軸ケーブルから光ファイバーまでさまざまである。現時点でLANでの利用度は間違いなくナンバーワンのLAN技術であるため、イーサネットについては別途詳説する。

同じケーブルを共有するために、データの衝突が起こると転送速度が落ちる点がかつては「効率が悪い」と罵られていたが、スイッチ技術という画期的な技術が開発されたことによりそれも昔話となった。

2.3 トークンリング(Token Ring):主にLAN

昔はIBMが「イーサネットは混雑してくるとデータ伝送効率が落ちる」として積極的に売っていたネットワーク。「ネットワークにデータを送ってよい」というしるし(トークン)を環状になったネットワーク内で順次回していくことにより、複数の端末が同時にデータを送信してしまうことを避けている。

しかし、当初の速度が4Mbps(イーサネットは10Mbps。ただし、実効速度で考えると10Mbpsのイーサネットはせいぜい3Mbps程度であったから確かに昔は速かったかも)、その後改良されても16Mbpsと絶対的な速度がイーサネットの10倍ペースに比べて上がらなかったためか、LAN用途では最近あまり使われない。

2.4 FDDI(Fiber Distributed Data Interface):主にLAN

トークンリングと同様にデータ送信権をあらわすトークンを環状になったネットワーク内でまわしていくシステム。トークンリングとは異なり光ファイバーを使っていて速かった(100Mbps)ことや、リングを2重にして信頼性を上げることができる、トークンによる送信権制御のため負荷が高くなっても速度があまり落ちないなどの特徴から、かつては組織レベルでの基幹LANとして多用された。現在でもかなり使われているが、価格的に高止まりしていることと、今となっては100Mbpsという速度はいくら効率が良くても基幹LANとしては遅すぎることから次のリプレース時に再度選択される可能性はかなり低いと思われる。

2.5 ATM(Asynchronus Transfer Mode)-LAN:LAN

元々B-ISDN、つまり電話をベースとしたデータ通信サービスのために考えられたシステムであるATMをLANに利用するもの。ATMではすべての情報を53オクテットのセルという単位に分割して送受信する。固定サイズのセルを使うことにより、処理が高速化できるという利点があるとされている。

伝送速度が、1.5Mbps〜2.4Gbpsと高速であること、データごとにQoSがコントロールしやすいことなどのメリットはあるが、もともとが電話の技術であるため従来のLANとの相性は今ひとつ良くない。

2.6 無線LAN:主にLAN

かつて無線LANといえば独自仕様の巣窟でマルチベンダー構成などは夢のまた夢であった。しかし、IEEE802.11と総称される規格が一般化することにより、相互運用もようやく可能になってきた。現在入手可能なものは、2.4GHz帯の電波を使い最大11Mbpsでの通信が可能なIEEE802.11bと呼ばれるシステムと5GHz帯の電波を使って最大54Mbpsでの通信が可能なIEEE802.11a、さらに802.11bと互換性がありつつ高速をうたっているIEEE801.11gがある。ただし、無線LANでは複数の端末が同時にデータを送ってしまったときにデータが壊れる現象(コリジョン)の検出が難しいため CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)という制御手順を使っており、実際には理論上の最高速度はとても出ない。802.11bでは3Mbpsも出れば上出来である。

IEEE802.11bについては、業界団体WECA(Wireless Ethernet Compatibility Alliance)<http://www.wi-fi.org/>が相互接続性について検証して Wi-Fiという認定マークをつけるようになってきている。もし複数のベンダーの製品を混用する場合には目安になるだろう。WECAでは、IEEE802.11aについても同様に相互接続性について検証、認定マーク付与を行う予定の模様。

無線LANの使っている電波はかなり高い周波数の電波であることと、出力が小さいためあまり広い範囲では利用できない。見通しなら数十mは届くが、鉄筋の建物だと隣の部屋でも駄目なことも多い。木造でも上下階での通信は難しいことが多いようであるが、このあたりは微妙な電波の飛び方に依存するので本当に届くかどうかは実験してみるしかない。

電波の飛び方はなかなか微妙なので無線LANを使っている家の近所だと電波が拾えてしまい、自家製Hot Spotとなってしまう可能性もある。このあたりは「実際にどの程度電波が飛んでいるか」についてある程度調べておいた方が無難である。802.11bのアクセスポイントを木造家屋の2階に設置して実験してみたところ、家の前の道路からでも十分受信できて立派な自家製Hot Spotとして利用可能なことが検証された。また、ノートPCを乗用車の助手席に載せて都内を移動してみてもアクセス可能な802.11bのアクセスポイントは相当数見つかる。

つないでほしくない端末が接続できないようにするためのWEP(Wire Equivalent Privacy)と呼ばれる弱い暗号化もサポートされている(オプション)。ただし、WEPの暗号化はあまりに脆弱で、十分な量のデータを傍受すれば解読はそれほど困難ではないというレポートもいくつかでている。実際に運用する際は、128bit鍵長の暗号化を行い、さらに定期的に鍵を変更するような運用手続きが必要である。また、所詮Wire Equivalentなので、機密性が必要なデータを流す場合には別途適切な暗号化を行う必要があるだろう。また機種によってはMACアドレスなどの無線LANカード固有の情報を使って接続制限を行うことも可能であるが、WEPではMACアドレス自体の暗号化が行われないためMACアドレス偽装には弱い。

WEPは通信の両端で同じ鍵を共有し、しかもその鍵がずっと使われるという問題があるため、WPA(Wi-Fi Protected Access)と呼ばれる新しい保護方式も提案されている。いずれにせよ、無線LANは電波がどこまで飛ぶかよく分からないという点でセキュリティ的には大きな弱点を持っていると言えるだろう。この点については、セキュリティの項で再度触れる。

2.7 Bluetooth:周辺機器接続用

短距離用(〜10m程度)を目的として開発された無線LANで、2.45GHzの電波を用いる。速度は1Mbpsどちらかといえば接続ケーブルを無線にするためのシステムであるといえる。アイディアとしては目の付け所がいいと思うのだが、なぜかあまり普及していない。

2.8 アナログ回線用モデム:主としてWAN

公衆回線(いわゆる電話線)に接続するものが主。歴史が古いだけに様々な規格のものが存在するが、結局最終的には局側からの下りが56kbps, 端末側からの上りが32kbpsにまで速度が上がった。実際には様々な情報圧縮技術を同時に利用しているため、データの内容によっては実効速度はもっと高くなることもある。

速度的には遅いもののなんといっても電話があれば使えるという利点があるため、未だに広く利用されている。かつては内線電話用の構内回線とモデムでLANを構成するということもあったが、最近では逆にデータ用の高速LANを構内に設置して、内線電話の音声もデジタルデータとしてLANで通信するという方向になってきている。

このタイプのモデムは、データを電話網で伝達できる音声に変換して扱うため電話交換機を通しても利用できることが特徴である。そのため遠隔地とであっても既存の電話網を経由して通信できる。

2.9 ISDNサービス:主としてWAN

どうせデジタルデータを流すなら、最初からデジタル通信網を作ってしまおうという壮大な計画の元に作られたサービス。通常の電話線(メタル)を使うINS64では64kbpsのチャネルを2つ利用でき、光ファイバーを使うINS1500では1.5Mbpsで通信可能である。INS64についてはNTTは日本全国でサービスを提供しているため、日本国内では非常に利用できる範囲が広い。そのため、遠隔地のLAN間を接続する方法としては未だに重要である。

通信網としてはデジタルデータを扱うが、ISDN加入者側に変換装置を設置することにより音声やG3 FAXなどのアナログデータを流すことも可能である。アナログ網との接続点での変換は通信事業者側でやってくれるため、ISDNとアナログ回線の間で電話をすることもできる。

インターネットの家庭への普及に伴い、「モデムより速い」ということで爆発的に契約数が増えたが、最近ではインターネットへのアクセスラインがより高速なADSLなどに移行しつつある。

2.10 ADSLサービス:主としてWAN

ISDNよりもっと割り切ってしまい電話網の交換機能などは一切利用せず、加入者線(局から加入者宅までの電線そのもの)に音声周波数より遙かに高い周波数を流すことにより高速通信を行うもの。当然音声を流すことを前提として設計されている電話網にそのままでは接続できないため、電話局と加入者側に高周波で入れるデータと低周波で入れる音声を分離する仕掛が必要となる。電話局で音声と分けたデータは電話網に入らず、ADSL事業者が用意したデータ用のネットワークに流される。

そのため、ADSLサービスを実施するためには電話局単位でADSL事業者が設備を設置する必要があり、利用者が少ないと予想されるあるいは設備設置コストが大きいと考えられる電話局ではなかなか利用できるようにならない。

現在主流となっているサービスは、局から加入者宅までの下り方向が1.5Mbps, 上り方向が500kbps程度の非対称タイプである(ADSL=Asymmetric Digital Subscriber Line)。もともと音声を流すつもりの加入者線に無理矢理高周波を流すため、電話局と加入者宅の距離や電線の敷設状況などによって実際の転送速度は大幅に異なることに注意が必要である。特に下り方向は上り方向より高い周波数を使っているケースが多いため、電線の状態によって影響を受けやすい。

下りの最大速度が40Mbpsとなるサービスも存在するが、さらに回線の状態に敏感になるため実際に40Mbpsでるケースはまれである。また、ちょっと古いいわゆる「ブロードバンドルータ」の類では、パケット転送速度が不足していて回線上の伝送速度より実効伝送速度が遅くなってしまうこともあるので注意が必要。

2.11 FTTH(Fiber To The Home):主として WAN

ADSLサービスは既存の電話網の電線を流用するシカケだったが、新規に光ファイバを加入者宅まで引いてしまうタイプのサービスを FTTHと呼ぶ。昔からデジタル専用線やATMなどでは光ファイバを使っていたが、FTTHはその名の通り基本的には個人、SOHO向けのサービスとして光ファイバを引けることが特徴である。NTT、電力系(TEPCO光)、有線放送系(USEN)など、電柱に実際にファイバを敷設する能力を持っている事業者が中心となっている。

速度的には、100Mbps程度の会社が多いが実際のデータ転送速度は数十Mbps程度が一般的。これは ADSLのように光ファイバの部分で遅くなっているわけではなく、光ファイバを出たあとでのネットワーク遅延が問題になっていると考えられる。ただ、ADSLのように距離によって急速に速度低下するようなことはないのが便利。ただし、線を敷設する必要が生じるため、需要量が多いと見込まれる地域でしかサービスが提供されていない。

練習問題

ア ISDNの記述として正しくないものはどれか。理由をつけて答えなさい。

1. 加入者線には光ファイバまたはメタル線を用いる
2. コンピュータ通信専用なので、通話やFAXには使えない
3. デジタル通信が可能なのは、ISDN同士であり、アナログ通信回線相手にはできない

イ 無線LANの特徴に関する記述のうち、適切なものはどれか。理由をつけて答えなさい。

1. 10Base-Tなどの有線LANで発生するコリジョンが発生しないので有線LANよりも伝送効率がよい
2. 10Base-Tなどの有線LANにL接続されたコンピュータとの間では通信することができないので、すべてのコンピュータを無線LANに接続するようにネットワーク構成を変更しなければならない
3. LANケーブルを使わないので、接続できるコンピュータ数に制限がない
4. 信号が届く範囲であれば、その範囲内の自由な位置にコンピュータを配置することができる

ウ. ADSLに関する記述として適切なものはどれか。理由もつけて答えなさい。

1. 既存の電話回線(メタル線)を利用して上り下りの速度が異なる高速データ通信を行うことができる
2. 固定的に設置した無線方式の加入者線であり、長距離伝送が実現できるので過疎地にも適してる
3. 双方向のCATV回線を用い、アナログのテレビ映像とデータを周波数多重化して伝送を行う
4. 光ファイバケーブルを家庭まで敷設し、電話やISDN, CATVなど各種通信サービスを提供する

エ. CSMA/CD方式とトークンパッシング方式のLANにおける伝送路使用率と平均遅延時間の関係を表すグラフのうち、適切なものはどれか。理由もつけて答えなさい。

オ. 部門内にCSMA/CD方式のLANを構築したが、長時間待たされることが最近よくある。原因に関する記述のうち間違っていなそうなものはどれか。理由をつけて答えなさい。

1. データの衝突が発生すると再送が行われるが、この頻度が増大している
2. トークンによる送信権の制御が適応不良を起こしている
3. リング型の構成上、データ量が過負荷となっている
4. リングの一部が破損している

カ. イーサネットを構成するケーブルにおいて、単一のケーブル長(セグメント長)をもっとも長くできるのはどれか

・10Base2, 10Base5, 10BaseT, 100Base-TX

キ. CSMA/CD方式による10Mbit/秒のLANに関する記述のうち、適切なものはどれか。理由をつけて答えなさい。

1. 送信フレームの衝突が生じたときは、送信端末は送出を中断し、乱数に従った待ち時間の後に送出可能かどうか調べる
2. 多数の端末が同時にデータを送出する場合は、伝送路が時分割多重化されるので、10Mbit/秒の伝送速度は保証されない。
3. 端末がデータの送信権を確保するためには、トークンを獲得する必要がある。
4. 端末ごとにタイムスロットが決められているので、必ずそのタイミングでデータを送信する必要があるが、タイムスロット分の帯域は保証されている。

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